誕生日に雨というのは、なんだかテンションが下がる。 そう思った、十四歳の誕生日。


『同じペースで』


「桃ー?」

自らを呼ぶ声で、桃子は我に帰った。
窓の外、雨に濡れる街を眺めたまま、意識が何処かへ行っていた気がする。
振り向くと、そこには佐紀がいた。

「何ぼーっとしてんの? らしくない」
「んー……」

佐紀は桃子の隣に肘を付き、桃子と同じように外を眺める。
しとしとと、静かに降る雨の音が妙に大きく聞こえた。

「雨、降っちゃったね」
「うん?」
「せっかくの誕生日なのに」
「ああ……、まぁ、仕方ないよ」

楽屋には二人だけだった。集合時間にはまだ一時間ほどある。
朝から妙に落ち着かなかった桃子は、早めに家を出た。
部屋の中でぼーっとして過ごせばいいと思ってここまで来たのだが、
絶対一人だと思っていたそこには、すでに佐紀がいたのだ。

「あのさぁ」
「何?」
「あたしがもし、後二十五日位生まれるのが遅かったらさ」
「うん」
「あたしはみや達と同い年だったんだよね」
「そうだよ?」

桃子はそれだけ言うと、少し間を置いた。
ほう、とついたため息が窓硝子を曇らせる。

「もしそうだったらさぁ」
「なーに、早く言ってよ」

もったいぶるような桃子を、佐紀は笑って小突いた。
しかし、桃子の表情は暗い。
佐紀は妙な空気を感じ、黙って次の言葉を待った。

「あたしと佐紀ちゃん、こんな関係にならなかったのかな?」
「え?」

佐紀がきょとんとして桃子を見る。
しかし、桃子の目は虚ろなまま、窓の向こうの何処かを見ていた。
少しだけ身震いする。
それが何に対してか、佐紀は分からなかった。

「佐紀ちゃんとあたしの間にはさ、何て言うか、違う空気が流れてる気がする」
「違う、空気?」
「他のメンバーとは違う、似てるようで全然かけ離れた空気」

桃子はふふっ、と笑って、「こんな事考えるなんて変?」と聞く。
遠くに行っていた意識が戻ってきたような、そんな雰囲気だった。

「まぁ、誕生日にそんな不思議な事考えるのは変だよね」
「えー、そこはフォローしてよぉ」
「でも」

さっきまでの異常なほどに大人びた面影が消え、桃子があまえた声を出す。
しかし、それを遮るように放たれた佐紀の言葉。
それによって、その場の空気は再び真剣味を帯びた。

「誕生日くらい、桃の変な話についていってあげてもいいよ」

今度は佐紀が、窓の向こうを眺めたまま言った。
桃子の目にはうっすら、自分の知らない佐紀が映っていた。
いつの間に、こんなに大人になったんだろう。
さっきまで佐紀が持っていた印象を、今度は桃子が胸の内に生んだ。

「変な話とか。ひどくない?」
「はいはい、いいから」
「もー」
「で、続きは?」

話の続きを佐紀が促すと、桃子はさっきより少しだけテンポよく話を進めた。
佐紀の一言が、桃子の中の緊張に似た強張りを溶かしたのかもしれない。

「空気が他と違うのは、佐紀ちゃんがキャプテンだからかもしれない」
「うん」
「でも、一番違うのは歳だと思うんだ」
「うん」
「少なくともあたしは、そう思ってるの」
「うん」
「そしてあたしは、佐紀ちゃんとの間に出来るこの空気が好き」

ふと視線を感じ、佐紀は桃子を見た。
泣いているわけではないのに、桃子の目に不思議な潤いを感じる。

「あんまりうまくいえないけど、この空気は、同い年だから生まれるもの」
「同い年、だから?」
「悩みとかだって年下のメンバーに聞くのは、照れくさいときもあるし」
「まぁ、たまにね」
「なんかね、頼る事ができるのは、結局佐紀ちゃんなんだ」
「そう? 桃、りーちゃんとかに話聞いてもらってたりするじゃん」
「何、あたしがりーちゃんより子供だっていうの?」
「捉え方はご自由に」

少しおどけた佐紀の肩に、桃子は額を押し付けるようにもたれた。
まるで蝶が飛び立つときのように静かなその動きに、佐紀は少し驚く。

「つまりね、何が言いたいかと言うと」
「うん」

ずいぶん長い前置きだったな、と心のなかで苦笑いする佐紀。
しかしそれは、あっという間に消えた。

「少し不安なんだ」
「え?」
「今日であたしは佐紀ちゃんと同じ十四歳。でも、中身は?」

佐紀の後ろに桃子の腕が回ってきた。
少しだけ跳ねる心臓を、佐紀は唾を飲みこんで抑える。

「中身も佐紀ちゃんと同じ位になれるか、不安なの」
「別に、そんな……」
「だってBerryzの中でたった一人の同い年だもん」
「桃?」
「同じペースがいいの……」

いつもの姿からは想像できないほどにしおれてしまった桃子。
そっとその背中をさすると、佐紀を抱く腕に力が入った。

「せっかくの誕生日なのに、そんなこと思ってたの?」

佐紀が聞くと、桃子は黙って頷いた。
赤ん坊をあやすように、佐紀は背中をポンポンと叩いた。

「大丈夫」
「……何が?」


「私は、ここにいるよ?」


桃子は、佐紀の肩をゆっくり押した。
二人の体が少しずつ離れていき、お互いの目が見える所で止まる。
絡み合う視線が、妙に色っぽく感じた。


「好きよ」


触れるだけのキス。
佐紀は一瞬驚いたが、再び目が合う時には微笑みを浮かべた。
しかしその表情は明らかに動揺したもので、桃子の笑みを誘う。

「そんな佐紀ちゃんが、好き」
「……私も好き、かな」

頬を赤らめてつぶやく佐紀を、桃子は再び抱きしめた。
さっきよりも力強くて、熱い抱擁。

「佐紀ちゃんあったかーいっ」
「ちょっ、人が気を許したらすぐこれだっ。離してよっ」
「いいじゃん、誕生日くらい〜」
「さっきまでのシリアスはどこへいったの、もう!」



集合時間までは後三十分。
これからの時間が桃子にとって、
一番の誕生日プレゼントになったのかもしれない。





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